言いたくなる「ここだけの話ですが…」~信頼関係を深める武器になる?~

2024年5月16日

出所:ぱくたそ[ https://www.pakutaso.com ]

「おー、さっきの取材どうだったよ?」

以前の勤め先で、編集長からよく聞かれていた。取材に出る機会が減り、鈍りつつある現場感覚を磨いておくつもりだったのだろう。

 

長々と話せば、間違いなく藪蛇になるので、取材先の強みと現状のみ端的に報告する。ただ、それだけで編集長が満足するケースは少ない。結局、一味足して伝えることになる。

 

相手も記者経験が長い。興味深く聞いてくれるので、こちらも話過ぎてしまう。そのときに感情を抑えるように注意しないと、余計な一言を発してしまう。

 

「ここだけの話ですが…」と。

 

守秘義務は最低ライン

私にとって「ここだけの話ですが…」は、自分だけが知っておきたい発展性のあるネタ、記事のなかでもっともインパクトの強いネタである。当時の私は、今後の取材活動を邪魔されたくないというよりも、社内も含めたまわりを驚かせたいという気持ちの方が強かった。

 

当然のことながら、取材先から口止めされている話は、社内であっても話さない。守秘義務は記者として守るべき最低ラインだ。

 

人の口に戸は立てられない。伝聞する人が持っている情報が掛け合わさり、どんどん尾ひれがついて、事実と異なる情報に発展することもある。場合によって、「それ知っている!」と共感し合うことも少なくない。

 

当時の編集長を信用していなかったわけではない。ただ、懸念はしていた。記者が希少な情報を出すことで、こちらから胸襟を開いて見せ、相手との距離を縮める方法もあるからだ。

 

情報の対価交換

希少な情報ほど話したくなるのは、人の性ではないだろうか。小学校の修学旅行や野外活動で、好きな女の子を言い合う感覚に似ていると思う。情報の対価交換だ。

 

たまに情報だけ奪っていく人もいる。

先に好きな子を言わせておいて、自分は「好きな子はいない」というやつだ。

 

対価交換を約束したわけではない。

この納得できない気持ちは、お互い(もしくは複数人で形成する組織内)の関係性によって、「仕方ない」と矛を収めるしかないだろう。あまりにそのようなことが続くようであれば、情報がもらえなくなる可能性が高くなるだけだ。

 

強く線を引くこと

「ここだけの話」を漏らす人は、信用を大きく損なう。だからこそ、自分のなかで境界線を強く引く。

 

私が所属した編集部は、連携プレーが少なく、単独で取材を進めることがほとんどだったので、線が引きやすかった。記者だからこそ、守秘義務の線は引きやすいといえる。

 

それでも、相手が上司ともなれば話は別だ。サラリーマン気質が頭を出す。報告の内容が薄ければ、怠慢と思われ、今後の仕事がしにくくなる。ここにも、上司と部下の信頼関係がある。

 

正直なところ、「ここだけの話ですが…」はあまり使いたくない。もったいぶった態度が不遜だし、なにより「この人は口が軽いな」と思われる可能性が高い。いざというときに使うからこそ、効果のある一言だ。