あえて「それなり」にしている

2024年5月16日

「この製品の特長は何ですか?」

我ながら、思考停止に陥っている質問だなと思います。

遠回しなことを聞くよりも、シンプルかつストレートな投げ掛けの方が相手も答えややすいはず…。

太い幹から枝葉が伸びるように、会話を広げるには、製品のアピールポイントを聞いた方が少ない時間で多くの情報が得られる。

そう自分に言い聞かせて、月並みな質問を十数年も繰り返しているわけです。

「革新的」「世界初」「業界初」と謳う製品は、取材先から返ってくる言葉が多く、記事のスペースが足りないほどの情報量があります。

ひたすら聞き役に徹していると言ってもいいかもしれません。「記事の材料を得る」意味では、とても楽です。

一方、成熟された市場で、しかもマイナーチェンジされた製品は、業界紙記者の腕が試されます。

資料としていただいたチラシやカタログに記載されている内容は、「高耐久性」「高精度」「リーズナブル」など情報量が圧倒的に少なく、スペックしか書かれていないことも珍しくありません。

貴重な時間を割いて協力してもらっている以上、手ぶらで帰るわけにも行かず、あらゆる方向から質問をすることになるわけです。

売れ行きの良い業界、想定される作業シーン、従来品との違い、資料に記載されている「特長」の理由など、少しずつ深掘りしていくうちに、成熟した製品をマイナーチェンジした背景が見えてきます。

特注仕様で対応していたサイズが需要増加で「標準品」になったり、調達しやすい素材に変えて価格を抑えたり、手薄だった用途・業界を開拓するきっかけにしたりといったものです。

なかには、あえて「それなり」にしている製品もあります。言うまでもなく、選ぶ人によって、購入動機が違うからです。

使用頻度や求める効果とコストのバランスを見極めながら、結果的に「それなり」の製品を選ぶことは、日常生活でもよくあることです。

そういった意味では、品質や機能で尖った製品よりも、妥協のニーズに応える製品の方が市場を支えていると言えるかもしれません。