文字数の呪縛~ボリュームの大きな記事に対する苦手意識を拭えない~

出所:ぱくたそ[ https://www.pakutaso.com

どういった目的で書くにしても、文字数が決まっていることが多い。読書感想文、論述問題、小論文、卒論、レポートなど、量の水準と制限を設けることで、評価しやすくしているのだろう。

記事は事情が異なる。話題の大きさ、情報の量、ほかの記事とのバランスによって、割くスペースが決まる。思い入れのあるテーマほど、伝えたい気持ちが強くなるものの、限られた文字数のなかで、中身の濃いものを書くことも、記者の腕の見せどころだ。

ただ、私は「書くことで生計を立てる」ことを軸に20年間働いていながらも、ボリュームのある記事を任されるのは苦手である。4,000文字以上で文字数を設定されると、内容よりも「文字数をクリアしなければ…」という気持ちが先に出る。

書き進めれば、悩むほど難航しないことは分かっている。実行にあたって、テーマ決めから資料収集、取材、文章構成の検討まで、無駄に想像を膨らませて、あれこれと長い道のりを考えるだけで精神力を使い果たしてしまうのだ。

赤ペンで埋め尽くされた原稿

文字数を意識し始めたのは、記者になってから。駆け出しの頃に働いていた出版社は、週刊紙のページごとに割り振られた分野別に「面担(面の担当者)」が決まっていた。

3カ月間は、1週間あたり
・担当分野-1本(600文字)
・製品記事-1本(600文字)
・一般紙の要約記事-数本(1,200~1,500文字)
を書いていた。

業務量は、ほかの社員に比べて圧倒的に少なく、記事1本にかける時間も多い。慣れておらず、先輩に添削してもらった原稿は、赤ペンで埋め尽くされ、何度も書き直した。

余計な情報は、斜線を引かれ、記事のボリュームが減っていく。洗練された記事は、たった600文字にも満たず、ほかの面担に迷惑をかけてしまうこともあった。

そのような状況が続くなかで、入社から5カ月経った頃、特集を任されることになった。

「やばいなぁ」を連呼していた

「特集」と言っても、ブランケット版の1面分だ。文字数は5,000文字程度。一つのテーマで、これだけのボリュームを書いたことがなかった私にとって、途方もない数値だった。

ニッチな分野だったので、取材件数は少なく、作成までの下準備はスムーズだった。しかし、取材の練度が低く、いざ書き始めると、情報量が少ないことに気付いた。文章表現の手札も少なく、同じような書き方になり、書いている自分でも「つまらないな」と思うような内容だった。

案の定、先輩から返ってくる原稿は赤だらけ。深夜まで付き合ってもらったにもかかわらず、締切が迫っていたこともあり、洗練された特集にはならなかった。

ボロボロな原稿でも、1日8時間かけて600~800文字しか書けなかった。あの頃は、口を開けば「やばいなぁ」と連呼するダメな社員だった。

あれから20年経っても、精神的にはあまり成長していない。Webの世界に踏み込もうとしている今でも、「1万字」と聞くだけで、詰まるような気持ちだ。

現役で活躍する記者やライターは、そんなことはないのだろう。ササッと書くに違いない。そう思って、他人の記事を読む毎日である。