オンライン取材継続中です

2024年5月16日

「とにかく現場に行け」

一昔前の刑事ドラマのような台詞ですが、私が業界紙記者になり立ての頃もよく言われました。

廃棄物処理施設にしても、生産・加工工場にしても行ってみなければ、分からないこと、気付けないことが多いからです。

  • 大きい/小さい
  • 長い/短い
  • 硬い/柔らかい
  • 速い/遅い
  • 暑い/寒い

などと書いても、読者の受け取り方は様々です。

具体的な数値で示すにしても、取材に感じたことを書き添えれば、イメージも多少しやすくなります。

格好良く言えば、「五感で得た情報」でしょうか。

話題性をはかる意味でも、できるだけ場数を踏み、判断する物差しを増やしたいものです。

ただ、2020年2月頃から新型コロナウイルス感染症の影響で、現場取材も難しくなってきました。

真っ黒な画面に話しかける

新聞以外の仕事が年々増えている私でさえも、現場取材ができないのは大きな痛手でした。

緊急事態宣言が発令される前から、「当分訪問するのはやめてほしい」「在宅勤務になるから、できれば書面で質問項目を送ってほしい」と言われることもめずらしくありませんでした。

感染のリスクを考えれば、至極当然のことです。

代わりにオンラインで取材させていただく機会が増えました。

移動する時間がなくなり、相手も場所を選ばずに対応できるのは、お互いにとってメリットがありました。

音声のタイムラグがなく、画面共有で画像や動画を見られるので、対面にほぼ近い状態で取材できます。

そのなかでも、「少しやりづらい…」と感じることがあります。

相手のカメラがOFFになっているときです。

先方の都合もあるのは重々承知していますが、やはり真っ黒な画面から表情や仕草が見えないのは少しやりづらいです。

質問に対する反応が分からず、少し角度を変えて投げかけるか、それとも沈黙を我慢するか、迷うときがあります。

その結果、言い出しが被ったときは申し訳ない気持ちでいっぱいになります。

第一線で活躍するフリーライターの方によれば、「沈黙の時間は、対面なら5分、オンラインなら長くて3分」とのこと。

もはやオンラインが出版業界でも当たり前になり、遅ればせながら、私もようやく慣れてきました。

しかし、オンラインの経験をさらに積む必要がありそうです。

相手にも都合がある

改めて思うのは、現場で取材できること、相手が回答してくれることのありがたさです。

社会学者の加藤秀俊氏は、『取材学-探求の技法』(中公文庫)で、取材に対する姿勢についてこう書いています。

まず第一に、取材というものには、相手の都合がある、ということ。なにがなんでも、その人から情報を手に入れなければ、という熱意は立派である。ぜひ会って教えてを乞いたい、という強引さもある程度は許されるだろう。だが、誰にでも都合というものはある。会っている暇はない、とか、会いたくない、とかいう返事がもどってくることもある。面会するかしないかを決める自由を相手方はもっているのである。その自由を侵害する権利は誰にもない。会いたくない、と言われたら引きさがるのが作法というものだ。

私は取材先あってこそのメディアだと思っています。

とくに私たち業界(専門)紙は、大手メディアが報道しない情報を伝えるのが役割です。

ただ、情報を発信する責任はあるものの、記者自体は決して特別な存在ではありません。

奢ることなく、オンラインも有効活用しながら、新しい取材のカタチを模索していきたいと思います。