【読書】破天荒
「日本経済の青春期」を型破りに駆け抜けた業界紙記者がいた。
この帯文で即購入しました。
経済小説家の高杉良氏が書いた『破天荒』(新潮社発行)は、石油化学新聞の記者が主人公です。
名前は「杉田亮平」。
高杉氏がモデルとなっているため、自伝小説に近い内容になっています。
序盤から繰り返し強調しているのは、自分の筆力と取材力に絶対的な自信を持っていること。
本書は、実際に掲載した(であろう)記事が数々引用されています。
プラント建設のルポルタージュからは、石油化学業界の勃興期を感じさせる熱がありました。
現場で見て、聞いて、感じたことを的確に書いた記事は評価され、次の仕事につながっていく。
つまり「人脈」です。
相手の立場や役職に関係なく、物おじせずに接する杉田の姿は、一部の反感を買いながらも、企業、通産省、業界団体のキーマンから好感を持たれます。
亮平は窓を背にした化学一課長席であろうと、総括班長席であろうと石油化学班長席であろうと、空席なら座り込んでしまうほど図々しかった。ただし、頼まれごとは受けることを旨としていたので、文句を言われることは一度もなかった。他の記者のように丸椅子をちんまりしているつもりはさらさらなかった。
こういった描写が出るたびに、「真似できない」と思いました。
機会を逃さず、すぐに実行に移す行動力も武器にしています。
取材や情報収集だけでなく、集まる場を設けたり、人を紹介したりと、「頼まれごと」にもスピード感を持って取り組んでいるのが印象的でした。
新聞記者、経済小説家の流儀
スクープを出す一方で、杉田(高杉氏)の流儀も垣間見えました。(太字…杉田)
「ソースを言えよ」
「“墓場まで持っていく“の常套句しか言えない。そんなことは百も承知でしょう」
「僕は酒席での話は記事にしてはならないと肝に銘じてます」
両方とも当然のことながら、情報力が武器の新聞記者にとって、線引きが難しいところです。
個人的には、すでに記事にしたこと、公になっている情報、市場動向に関する私見は、聞かれれば答えるようにしています。
「ここだけの話…」は、社内の人であっても話さないのが当たり前のこと。
業界紙記者といっても、信用のうえに成り立っている仕事ですから。
本書の後半2章は、経済小説家としての歩みが書かれています。
各作品のモデルにも触れており、高杉良の作品を読んだことがある(といっても15冊ですが…)私も読みごたえがありました。
内部事情も詳しく書かれている作品が多いだけに、やはり徹底して取材していたようです。
経済小説とか企業小説というものの値打ちは、やはりリアリティなのではないかと思うのです。どうしてそんなに取材をするかというと、結局何も知らないからです。
業界紙記者としての考え方と行動を考えさせられる一冊でした。
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